パプリカのメロディのちょっと怖い部分の正体

大人気、米津玄師さん作詞作曲の「パプリカ」

NHKの2020年応援ソングとして製作され、Foorinのメンバーの子供たちが元気に歌う楽しい楽曲・・・

と思いきや、実際聴いてみると底なしに明るい曲というわけでもない何かを感じさせる不思議な響きがありますよね。なんならちょっと怖い感じもする。

今回はそんなパプリカに隠された秘密を音楽の理論的な側面からわかりやすく解説していきます!

サビのメロディで「何か」が引っかかる

パプリカの楽曲中でもとりわけ気になる部分がサビのメロディの「種をまこう」の部分ですね。

途中までは素直な明るい曲調だったにもかかわらず、この部分でいきなり不思議な世界に迷い込んだような、そんな感覚になりますよね。これは確実に「何か」が起きている…!

さて、それでは種明かしをしていきましょう。実はここにはとある音階が使われているのです。

それはメロディックマイナースケールという名前の音階。日本語では旋律的短音階といいます。

要するにマイナースケール短調の音階というわけなのです。

パプリカは聴いての通り、曲全体としては明るい長調の曲です。しかしそこに唐突に短調のスケールが入ってくることによってなんとも神秘的なサウンドが出来上がっている、というのが事のあらましです。

短調の音階は3つある

パプリカの怖い感じの正体は長調の中に唐突にマイナースケールが入ってくる」というものだということがわかりました。

せっかくなのでここでそのマイナースケールというやつについてもう少し掘り下げてみましょう。

実はマイナースケールには3つも種類があるのです。

ナチュラルマイナースケール

まず一つ目がこれ、「ナチュラルマイナースケール」。日本語では自然的短音階といいます。

まあ難しく聞こえますが要するにナチュラルなやつってこと、一番普通のマイナースケールということです。

白鍵だけで弾ける「ラシドレミファソラ」ですね。皆さんご存じだと思います。ナチュラルマイナースケールは特に言うことないですね。普通のオーソドックスなやつです。

ハーモニックマイナースケール

二つ目に紹介するのがこちら、「ハーモニックマイナースケール」。日本語では和声的短音階といいます。

ハーモニックという意味は和声とか和音とかそういうことですね、ハモるなんてよく言うじゃないですか。まさにそれです。

「え?音階なのに和音とか関係あるの?」と思った方もいるかもしれませんね。実はこれが大ありなのです。

今度は白鍵だけでは弾けません。「ラシドレミファソ♯ラ」という音階になります。この半音上がった黒鍵のソ♯は一体どこから来たのか。

実はここに和音が大きく関係してくるのです。和音のとある事情から「うーん、ソを半音上げてしまえ!せいっ!」という感じで作られたのがこのハーモニックマイナースケールなのです。

それは一体どんな事情なのでしょうか。

コード進行の基本の動きの中に4度進行というものがあります。いわゆる「おじぎの和音」てやつに入っているアレですね。みなさんも学校で一度ならず聞かされたことでしょう。

C ドミソ → G7 ソシレファ → C ドミソ

このようにおじぎの和音は明るい長調でのコード進行なのですが、ここの仕組みが後に関係する大事なところなのです。

とくに「G7→C」のコード進行はベースの動きから4度進行という名前で呼ばれています。

この緊張落ち着きという響きの秘密はコードの中に隠されたある音程がもたらしているのです。それがトライトーンという音程です。

1オクターブをちょうど半分に割ったこのトライトーンという音程、聴いてみると非常に不安定な響きがしますよね。

G7の中でこのトライトーンを作っている「シ」「ファ」がそれぞれ「ド」「ミ」に移動することによって「緊張→緩和」という効果が生まれるのです。

この一連の流れを「不協和音が解決する」と言ったりします。

 

さて今お見せしたのは長調での話ですが、短調ではどうなるのでしょう。同じように4度進行を作ってみましょうか。

同じ構図のまま短調の方にスライドしてみたらきっとこうなりますよね。コードで書いたら「Em7→Am」ってことになります。

実際に音を聴いてみるとどうでしょう。おじぎの短調版という気はしますが、先ほどと比べて「緊張」というほどピリッとした響きはない感じがします。全体的にまろやか

それもそのはず、なんと「Em7」の中にはどこを探してもトライトーンがないのです!

なるほどだからぬるっと進んでしまったのか…もっと軍隊のようなキリッとした究極の短調版おじぎを完成させなくては…!!おりゃあっ!!

ということで「G7と同じようにトライトーンをもった短調版のコードを作ろう」という動機から「E7」が誕生しました。

うーん、まさにこのピリッとした響きからの落下感!おじぎの短調版って感じですね!

とまあこんな和音がらみの理由でソはソ♯へ半音上げさせられる羽目になったわけです。

しかしコード進行の都合で音階をいじったことが、少し都合の悪いことを生じさせることになります。コードのわがままのしわ寄せが音階の方にくるのです。

それが「ちょっと音階としては滑らかさが無くない!?」という問題。

音階と言えば全音半音でつながったものを皆さんよく見ると思います。

しかしハーモニックマイナースケールでは和音の都合でソを半音上げてしまったばっかりにファとソ♯の間が半音3つ分も空いてしまうことになるのです。

「これはちょっとアンバランスだなあ、でもソ♯は譲れないし、ぐぬぬ・・・あ、そうだ!こうすれば!」

メロディックマイナースケール

はい、ようやく出てきましたね。メロディックマイナースケール。日本語では旋律的短音階

先ほどの「音階のなめらかさ問題」において苦悩の末たどり着いた答え、それがこのメロディックマイナースケールなのです。なんとファを半音上げてファ♯にしてしまいました。

こうすることで和音の都合も受け入れつつ音階のなめらかさまで実現できるという見事な解決策!コードとメロディのわがままを両立できるなんとも強欲な会心のアイディアですね!

パプリカのサビに使われているスケールはまさにこのファ♯とソ♯が出てくるメロディックマイナースケールなのです。

3つのマイナースケールまとめ

さてここまで出てきた3つのマイナースケールをいったん整理しておきましょう。

  1. 普通のヤツが「ナチュラル」マイナースケール。
  2. 和音の都合で作られたのが「ハーモニック」マイナースケール。
  3. その上で音階の都合も考慮したのが「メロディック」マイナースケール。

ね?簡単でしょ?成り立ちさえ知っていれば丸暗記する必要なんてないんです。

それから、大事なことですがこの3つのスケールに優劣みたいなものはありません

「メロディックマイナースケールがコードとメロディの都合を両立してる一番優れたスケールだ!」と思ってしまうかもしれませんが、そんなことはないのです。

それどころか、それぞれのスケールがそれぞれ全く異なった音楽的効果を持っていて3つのスケールそれぞれが別の魅力を秘めている、と考えるべきでしょう。

3つのスケールの成り立ちはともかく、実際に音楽として活用する場面ではそれぞれの特徴を理解し納得し、「ここでこの響きをいれたい!」というときに繰り出せるようになるのが一番望ましい姿です。

実際の曲でどう使われているか

成り立ちや仕組みがどうこう言ったって、やっぱり最終的には音楽の中でどう活躍するのかを見なくては始まりませんよね。

それぞれのスケールが使われている実例を聴いて、感覚に落とし込んでいきましょう。(ナチュラルマイナースケールは普通のヤツなので省きます。)

ハーモニックマイナースケールの例

【情熱大陸 / 葉加瀬太郎】

情熱大陸のテーマでおなじみのヴァイオリンがキレッキレでかっこいいこの曲。

メインテーマの出だし付近でハーモニックマイナースケールが使われています。

このメロディは最高ですね!ここはナチュラルでもなく、メロディックでもなくハーモニックマイナースケールが文句なしに一番ぴったりでしょう。

「ラとソ♯」、そして「ファとミ」二つの半音の動きが、力強く降りていくメロディの中で実にグッときます。(※原曲はヘ長調/ニ短調です)

実にエモい!ハーモニックマイナースケールが輝く名曲です。

メロディックマイナースケールの例

【サウダージ / ポルノグラフィティ】

YouTubeの解説動画でもさりげなく例に挙げましたが、ポルノグラフィティさんより「サウダージ」。永遠の名曲です。

こういった全体として短調の雰囲気を持つ曲で使われることが多いです。そして特徴的なのが、このスケールは上がるメロディとして使われることが多いという点です。

他にもビートルズの「Yesterday」、「タッチ」、「およげたいやきくん」、KinKi Kidsの「硝子の少年」などにメロディックマイナースケールは登場しますが、いずれも短調の曲で上昇形のメロディとして出てきます。

こういった慣例からも「パプリカ」での使われ方はなかなかに珍しいのです。

一見明るい雰囲気の中に唐突に現れるメロディックマイナースケールの響き、これがなんとも言えない神秘的な雰囲気をもたらしているとずっしー的には思います。

明るい長調ベースの曲にメロディックマイナースケールが出てくる例としては「ドレミの歌」があります。

しかしこちらはパプリカのようなサウンド効果はそんなに感じませんよね。

「ソは青い空」からずっと同じ形の駆け上がりが強調されたメロディが続いていて、その流れの中で自然にメロディックマイナースケールが使われているという感じ印象です。

結局は「何を使うか」だけでなく「どういう流れでどう組み込むか」が楽曲の印象を決める上で重要だということが言えそうです。


さて今回は米津玄師さんの「パプリカ」をテーマに3つのマイナースケールについて紹介しました。

それぞれのスケールの特徴を見て聴いて弾いて確かめて、ぜひ自分のアレンジの引き出しに収めておきましょう。

また、今回は「Ⅲ7においての各マイナースケールの使い分け」に絞って解説しましたが、マイナースケールはⅥ7やⅦ7でも頻繁に登場するのでその話はまた別の記事にて解説したいと思います。

(ⅢとかⅥとかって一体何!?というかたはこちらをお読みください → 度数表記の解説記事

ここまでお読みいただきありがとうございました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です